夜、家にいるのに、自分だけが、どこか遠くにいるような気がするときがあります。
リビングには家族の気配があって、
テレビの音もして、
たしかに「一緒にいる」はずなのに、
心だけがすうっと離れていくような感じ。
あるいは、自分だけがその輪に入れていない感じがします。
仕事のあいまにも、そのようなことが、ふと訪れる瞬間があります。
デスクに戻って椅子に腰をおろしたとき、
言葉にもならない“空白”みたいなものが、胸の奥にそっと座る。
「…俺、何してるんだろうな」
「俺はこのままでいいんだろうか」
誰に言うでもなく、声にもならず、
ただ心の中にだけ、小さく生まれては消えていく自分自身への問い。
ずっと心の中にくすぶっている、なんとも言えない寂しい気持ち。
休日、家族と過ごしているときでさえも。
楽しくないわけじゃないし、
ましてや、嫌いになったわけでもない。
大切じゃないわけでも、もちろんない。
ただ、
「自分の心は今どこにあるんだろう」
と、ふと立ち止まってしまいます。
湯船につかって天井を見上げると、
なんとも言えない“ぽっかり感”がにじんできます。
僕は今年40になりました。
僕自身、このように「なんだかずっと寂しい」と感じることが多くなりました。
実存的孤独とは
これは、心理学や哲学では「実存的孤独(じつぞんてきこどく)」と呼ばれるものです。
ちょっと難しいので、わかりやすく説明しますね。
「実存(じつぞん)」とは、他の誰でもない「自分の人生を生きている」という感覚のこと。
いま目の前にある現実を、自分のものとして引き受けながら歩いている、というあり方。
つまり「実存的孤独」とは、
「自分の人生は、自分にしか生きられないんだ」そう気づいたときに生まれる、静かな孤独のことです。
誰かがいても、優しさがあっても、自分の人生は、自分にしか生きることができない。
そう分かったときにじんわりと気付かされる、自分の人生という役割を負った、「わたし」の孤独のことです。
実存的孤独を感じることは弱さではなく、
ちゃんと生きてきた人だからこそ出会うことができた感覚なんです。
これまでの40数年の時間をかけて、あなたが、僕が、それぞれ自分の人生と真摯に向き合ってきたからこそ出会った感覚なんです。
なぜ40代で強まるのか
40代は、責任や経験を積み重ねたことで自分の人生を深く意識する時期であるといわれます。
これまでの経験が少しずつ「自分の色」として積み重なり、
過去の選択や失敗も、痛みごと味わいとして受け止められる時期です。
成功も失敗も、すべて今の自分につながっている。
過去を肯定的に感じる人も、ネガティブに感じる人もいると思います。
どちらにせよ、それは自分の人生と真摯に向き合った証です。
40代は、自然と自分自身の人生と向き合う時期です。
つまり、「実存(自分の人生を生きている感覚)」と向き合う時期といえます。
自分の人生は自分にしか生きることができないという気付きが、孤独も同時にじんわり強めます。
SNSで自分より成功している人や、自分より優れたお父さんをしている人たちを見て、
「あぁ、自分はあんな風になれてなくて、情けないな」
「どうして自分はあんな風に、妻や子供たちに接することができていないんだろう」
と自責の念に駆られます。
実存的孤独と、やさしく付き合うために今日からできること
実存的孤独を感じることは、あなたが真剣に人生を生きていることの裏返しでもあります。
この孤独との付き合い方をいくつかまとめてみました。
他者の期待を満たすために生きてはいけない。
他者もまた、あなたの期待を満たすために生きているのではない。
(「幸せになる勇気」より抜粋)
① そのままの感情に気づく
「寂しい」と決めつけなくていい。
「今、心が静かだな」
ただ、それだけでいいんです。
その“気づき”が、心の呼吸になります。
② 自分の声と出会う時間をつくる
- コーヒーを飲むとき、ほんの5秒
- 車を停めて、深く息をする1分
- 夜、明かりを落として座る少しの時間
すこしの静けさが、心の温度を戻してくれます。
③ 話せる人を「ひとりだけ」持つ
たくさんじゃなくていいんです。
深く話せる相手が、ひとりだけいれば十分。
「話せる場所がある」というだけで、人は折れません。
「なんとなく寂しいんだ」と素直に誰かに打ち明けてみましょう。
打ち明ける相手がいなければ、よかったら僕に話を聞かせてください。
孤独は、なくさなくていい
実存的孤独を感じていること、それは、あなたがちゃんと生きてきた証です。
だからこの孤独を「なくそう」とする必要はありません。
選んできたものも、手放したものも、
全部ひっくるめて、
今のあなたがここにいる。
これはとても尊い、価値のある事実です。
孤独を感じたときは、自分は自分であっていい。
いいときも悪いときも、そのとき在るようにして在るのが自分。
とても尊い、大切な自分。
実存的孤独は、自分を前に進める力になる
実存的孤独は、ただの寂しさではありません。
自分の人生と向き合う時間は、自分の人生を、前に進めるエネルギーにもなり得ます。
① 小さな問いを立てる
「今、自分にとって大切なことは何だろう?」
孤独を感じたときに、この問いを紙に書きだしてみてください(スマホのメモアプリでもOK)。
何枚か積み重ねたものを見直してみてください。
それだけで、自分の価値観が少しずつ見えてきます。
見えてきた価値観を、人生の指針にしていきます。
② 自分の心が望むことに従って動いてみる
外の評価や役割ではなく、自分のために動いてみてください。
あれが食べたい、あの場所に行きたい、あの映画を観たい、なんでもいいです。
小さな一歩でも、自分が「やりたい」と思える行動を今日から一つやってみましょう。
思いつかないときは、子供の頃の自分を思い出してみてください。
子供の頃、あなたは何が欲しかったでしょうか。何をしたかったでしょうか。
③ 過去を自分の力に変える
成功も失敗も、自分の人生の一部です。
どんな成功も、どんな失敗も、全部が今の自分につながっています。
今あなたは、生きていてくれているだけで価値があります。
生きているだけで価値がある、生きていてくれているだけで、嬉しいと思ってくれる誰かがいる。
そう思うことができれば、これまでの全ては、今の自分を肯定する力になると思います。
過去を振り返り、「この経験が今の自分をつくった」と認めるだけで、迷ったときに、進む力になります。
誰もいないと思っても、僕はあなたが生きて、この記事を読んでいてくれたことに感謝しています。
あなたが生きていることを嬉しく思います。
まとめ
実存的孤独は、避けるものではなく、自分を確立し前に進むためのエネルギーです。
問いを立て、自分の心の声を意識し、過去を受け止める。
今日からこの3つを意識するだけで、孤独はあなたの味方になります。
最後に
今日も、よく生きました。
しんどい気持ちがあっても、ここまで来た。
「よく生きてるよ、今日の自分。」
その一言を、そっと心の中に置いてあげてください。


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